『
アール・デコの建築合理性と官能性の造形』吉田鋼一(中公新書 2005)
これまでアール・デコを正面からとりあげている本というのは少なかった。その意味でこれは画期的なものだろう。新書という形式であるため平易に書かれているので、かっこうの入門書となるだろう。特に建築の方面からのアプローチは興味深い。
あらためて気づいたのだが、
アール・デコという言葉は1966年に開かれたパリの装飾芸術美術館の回顧展であるという。それまでは「
装飾芸術」という普通名詞だったと書かれている。
アール・デコに先行するもの
さまざまな近代運動がアール・デコに流れこんでいるという、たとえばゼセッション(分離派)という建築様式はアール・ヌーボーとアール・デコの要素をもっているし、デ・ステイル、表現主義、未来派、キュビズム、構成主義、バウハウスなどの要素がアール・デコに影響を与えているという。
需要なのはアール・デコの先駆例をいくつか紹介していることである。
ヨーゼス・ホフマンや
フランク・ロイド・ライトの作品。
キュビズムの建築(チェコで1910年代前半に多く建てられた)や構成主義のメリニコフのソ連館などをあげている。
結論的にいえば他の造形運動とはちがって、アール・デコは明確な理念がない。当時の時代の表現様式なので大衆的・商業的なスタイルである。大衆向けであるため先鋭的なものではなく、
キッチュな性格を帯びている。いっぽう社会のなかで使用されているため、たんなる表現にとどまらず高度に洗練されたものとなっている。
アール・デコが再評価されるのは、近代の無味乾燥したモダンデザインの反動だといわれる。その側面もあるだろうが、ここで描かれている「官能性」の部分に着目してみたい。