三角寛の『サンカ社会の研究』を徹底批判した本を読んだ。
『サンカの真実 三角寛の虚構』(筒井功 文春新書 2006)がそれである。三角の著作にでてくる人を取材して、裏をとるということをやっており、それだけでもスゴイが、さまざまな例証をあげてサンカの研究を彼個人の創作の論文としている。
私自身はそれを判断する材料をもっているわけでもなく。サンカの知識にしてもかつて存在したといわれる日本の漂白民、日本のジプシーという、あいまいな認識しかない。
しかし、『サンカ社会の研究』がサンカの概念に影響力をもち、一時は古書店などで高い値段で取引されていた事情などは知っているし、五木寛之の小説などにも利用されていたり、映画や小説でかっこうのネタにされているということは知っていた。
個人的なことだが百科事典の仕事をしていたときに、サンカの項目でかなり大きなスペースをとって紹介し記述されていたのをみたことがある。ちょうど校正刷りのところで、サンカの生活実態を写真説明しているところがあったのだが、河原で穴を掘り、ビニールシートを敷いて石を焼いてお湯にして風呂に入っている説明写真があった。
これについて、果たして昔は大きなビニールなどは入手困難だろうし、ビニールシートが普及しだした時期も判然としないのではないかと疑問に思ったことがある。
また写真事体もあまりに整然と撮られており、周到にセッティングされすぎている気がした。
話は変わるがドキュメンタリー映画の最初の作品ともいわれるR.フラハティの『極北のナヌーク』がエスキモーの生態を描いたという触れ込みだが、実はかなり創作と演出があったともいわれており、この手の秘境探検ものにつきまとう真偽の見極めが重要になってくる。
サンカの話も今となっては検証の不可能な部分が多々あり、結局は謎だらけで神話伝承のフィクション的な怪しい方向へと向かってしまう。
この本は三角寛についての批判本としてはすぐれているのだが、サンカについて何かわかるのかどうかというと、それは依然として謎が多く(著者としてはいまでも子孫は生存していて、調査可能であると断言しているが)、霧の中にあるような話である。