小谷野敦『日本売春史』(新潮社 2007年)は他に類書のないもので、一般的な通史の解説書ではないが、そのぶんおもしろい出来となっている。
著者特有の挑発的な議論が満載で、資料となっているもとの本を読んで再考するのも一興かもしれない(そんなヒマもないので、これはこれで重宝するとかんがえる)。
ところでいちばん気になったのは、最近のところでたとえば吉原とか、雄琴とか、堀之内などの記述はどうなのかなとおもったが、どうということはなかった。
まあ、風俗雑誌・週刊誌などを見ればすむようなことを載せるはずはないとおもうが、しかしなんらかの視点や新発見があってもよかった。
本書に掲載されている明治期の吉原の町並みをみるとゴシック風の西洋近代建築がたちならんで、おおげさでなくまるでロンドンの街角のようなのである。それが今では普通の風俗の街並み(もちろん風俗街ということでフツーではないのだが、風俗としては普通なのだ)になっている。せめてあの街路部分だけでも残せば、地方の風俗街とは違った東京の威厳なりステータスが保てたと思うのだが、関係者のヒトは再建する気ないかなあ。ないだろうな。
その点では大阪・西成の遊郭・飛田はいまだに風情ある街並みを残しており、やり手ばあさんもわきを固めるなど、往時の雰囲気がある。やはりどこか違う世界をみせる姿勢がほしいね。